昨日、以前労働基準監督署の調査の際に、お仕事をさせていただいた社長さんが突然来所されました。
その調査の際には、残業代は払ってはいたものの、かなり独自なルールで支払っておられた関係で、こっぴどく遡及支払いされてしまった会社さんです。
その調査の際に、その独自ルールであっても、法律上の残業代の不払いが生じないように、制度を設計させていただく形で関わらせていただきました。
そして今回…。
社長
『ややこしいから、正社員だけ○×の出勤簿に変えようと思うんです。そしたら何時間働いたかもわからないから、調査があっても軽い指導で済みますやん。』
私
『いや、でもそもそも事業主には、労働時間の把握義務というのがあって…。』
社長
『でも、それで知り合いの会社は、遡及払いも言われなかったみたいやで。』
~以降略~
○×の出勤簿で勤怠管理をされている会社はまだまだあります。
上記のように、実際に調査で出勤簿が○×ですと、あきらめて時間管理をするように指導するだけで帰られる監督官もいらっしゃるようです。
※ただ、私があたった監督官で、三ヶ月分、労働者から聞き取って自己申告によって確認して遡及払いしてくださいと指導されたケースもあります。
○×の出勤簿の是非は、いくつかの観点で見る必要があります。
(1)監督署調査
たしかに初回は許される場合が多いです。
『労働時間の把握義務』について説明があり、労働時間の管理手法を変えるように言われて、その内容を報告するという形で終わったりします。
ただ、例の社長の会社は、過去にタイムカードを見せていますから、『何故、○×にしたのか、労働時間を把握したくないからではないか?』と悪質と思われても仕方なくなりますね…。
(2)労働者からの訴え
不払い残業代請求を起こされた場合、個々の労働者が何らかの形で労働時間を記録していたとすると、ベースがその記録になり、事業主はその記録の中で労働していない時間帯を証明していくという形になります。
なぜ事業主に証明責任があるかと言えば、そもそも『労働時間の把握義務』があるからです。
『○×にしてわからなくなったら支払わなくても良い。』のではなく、『○×にしてわからなくなったら、労働者の言いなりで支払わなくてはならない。』と思っておいてください。
(3)健康面
ある意味最も大事なことです。
それだけではありませんが、労働時間数というのは、労働者の健康状態を推定するひとつのバロメーターです。
労働時間が少なければそれで良いということではなく、深いコミュニケーションを取って、精神的・肉体的な健康の維持、異常の有無の確認をしていく必要があります。これは、事業主に課せられた、自己の雇用する労働者への安全配慮義務という労働契約法に定められた条項により義務化されています。
それ以前に、実際に業務が適切に行われるように、個々の労働者の能力が発揮されるようにという観点からも、非常に大事なことです。
上記のような理由から、○×式はあまりお勧めできません。
もちろん、○×式でも、
①労働時間を把握できて
②労働者の安全に配慮ができて
③適正な時間外手当が支払えていれば
全く問題ありません。
でも、○×式では、現実的に難しいですね…。
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